
中小企業のAI研修・リスキリングについて、私たちはこれまでも「業務棚卸しシート」を研修の出発点にする話を書いてきました。棚卸しをすると、誰が・どんな作業に・どれくらいの時間をかけているかが見えてきます。
ただ、棚卸しシートが埋まった後に、もう一段つまずきやすい場面があります。「見えた作業のうち、どれから研修で扱うか」を決める段階です。ここを曖昧にしたまま全社員に同じ内容の研修をすると、ある人には物足りず、別の人には難しすぎるという状態になりがちです。
棚卸し結果を2つの軸で並べ替える
私たちが研修を設計するときは、棚卸しで出てきた作業を次の2つの軸で見直しています。
- 頻度・時間: 毎日やっているか、月に数回か。かかっている時間はどれくらいか
- AI適性: 文章・要約・分類など言語処理が中心の作業か、現場判断や対人対応が中心の作業か
この2軸で並べると、「頻度が高く、かつAIが得意とする言語処理寄りの作業」が自然と浮かび上がります。例えば、問い合わせメールの下書き作成、議事録のまとめ、日報の要約といった作業です。逆に、接客中の臨機応変な判断や、現場でしか分からない微妙な調整は、頻度が高くてもAI適性は低く、研修の優先順位は後ろに回します。
ここで大事なのは、「AIにできるかどうか」だけで決めないことです。頻度が低い作業は、覚えてもすぐに使う機会がなく、研修の効果が定着しにくくなります。頻度とAI適性の両方がそろって初めて、研修の初手として扱う価値が出てきます。
部署や役職で「同じ研修」にしない
棚卸しを部署横断でやってみると、同じ会社でも部署によって作業の中身がまったく違うことがよく分かります。事務の社員は文書作成やデータ整理が中心で、現場の社員は接客や調理のように言語処理以外の作業が中心ということも珍しくありません。
このとき、全員に同じカリキュラムを用意するのではなく、部署ごとに優先順位の高い作業を変えて研修を組み立てると、各自が「自分の仕事で使える」と感じやすくなります。私たちの熊猫商店でも、事務作業を担う社員とホールに立つ社員とでは、最初に扱う題材を変えています。ホールの社員にはお客様への説明文や販促文の作成から入り、事務の社員には資料の要約や下書き作成から入るといった具合です。
優先順位は一度決めたら終わりではない
優先順位づけをしたら、それで設計図が完成するわけではありません。研修を1〜2か月動かしてみると、「思ったよりAIに任せにくい作業だった」「逆に、優先度を低くしていた作業が実はよく使われている」ということが出てきます。その時点で棚卸しシートと優先順位を見直し、次の研修サイクルに反映する、という繰り返しが必要になります。
効率化そのものは目的ではなく、そこで生まれた時間や余白を何に使うかが本題だと私たちは考えています。だからこそ、最初の優先順位づけを丁寧に行い、現場の実感に合わせて調整し続けることが、研修を「やった」で終わらせないための土台になります。
棚卸しシートの作り方そのものについては、過去の記事でも紹介していますので、これから棚卸しを始める方はあわせてご覧ください。