
小さな困りごとは、だいたい最初は小さいままです。手順が少し分かりにくい、新しい道具の使い方に迷う、昨日決めたやり方と現場の感覚が合わない。その場で一言あれば数分で片付くことが、言えないまま数日たつと、やり直しや謝罪が必要な大きさに育ってしまいます。
私たちは熊猫商店という自社のラーメン店を運営していますが、ここでも同じことが起きていました。セルフオーダーの端末を入れた直後、操作に迷うスタッフがいても、忙しい時間帯には「後で聞けばいいか」と流れてしまい、結局同じ迷いが何日も繰り返されていたのです。問題は端末の使いやすさ以前に、「今、困っています」と言うタイミングがなかったことでした。
言える時間を、仕組みとして先に決める
対策として私たちがやったのは、特別な仕組みを作ることではなく、1日のうちに「困ったことを一言言う時間」をあらかじめ決めてしまうことでした。朝礼や終礼のうち1分だけ、「今日、困ったことはありますか」と聞く時間を固定で入れます。
ポイントは、問題が起きてから場を設けるのではなく、問題が起きる前から枠を用意しておくことです。その場で解決できなくてもかまいません。「言っていい」と分かっているだけで、小さな違和感を抱えたまま仕事を続ける時間が短くなります。
「言いやすさ」は、礼を尽くす関係の結果
私たちは社是に「Let's 縁楽(en-joy)」を掲げ、縁を結ぶ上で大切にしていることのひとつに「礼を尽くす」という考え方があります。これは丁寧な言葉遣いだけの話ではなく、相手が困りごとを安心して言える関係を保つことだと捉えています。
困ったことを言いにくい関係は、一見波風が立たず穏やかに見えますが、実際には小さな不満や迷いが水面下にたまっていくだけです。後からそれが表に出たとき、関係そのものを立て直す手間がかかります。先に「言える時間」を決めておくことは、後から笑える良縁を紡ぐための、ごく具体的な備えだと考えています。
効率化の先にある「楽(らく)」と「楽(たのしさ)」
困りごとを早く拾えるようになると、手直しにかかる時間が減ります。これは「楽(らく)」側の効果です。ただ、私たちが大事にしたいのはもう一つの「楽(たのしさ)」のほうです。
小さな違和感を言葉にできる場があると、それ自体が「ここでは言っていいんだ」という安心につながります。この安心は、新しい取り組みを試すときの心理的なハードルも下げます。効率化によって生まれた余白を、次に何を試すかという相談に使えるようになるのは、言いやすい関係があってこそです。
明日からできること
- 朝礼・終礼のどこかに「困ったことを一言」だけの時間を1分決める
- その場で解決しなくてよい、まず「言った」ことを認める
- 出てきた困りごとは、その日のうちに誰が見るかだけ決める(解決は翌日でもよい)
大きな制度を作る前に、まずは1分の枠を決めてみることをお勧めします。私たちの各種システムでも、現場からの小さな「困った」を拾う仕組みは、使い勝手を直すための一番の手がかりになっています。