
以前、業務棚卸しシートの書き方についてご紹介しました。宿題として書いてもらったシートは、実はそこで終わってはいけません。シートに書かれた業務の一覧を、そのまま研修のテキストに流し込んでも、受講者には「自分の仕事とは関係ない話」にしか見えないことがあります。私たちが研修を設計するときに最も時間をかけているのは、棚卸しの結果を「誰に何を教えるか」という設計図に変換する工程です。
業務を「頻度×時間」で並べ替える
棚卸しシートには、日報作成、発注、問い合わせ対応、シフト調整など、大小さまざまな業務が並びます。これを研修メニューにするときは、まず「頻度」と「かかっている時間」の2軸で並べ替えます。毎日何十分もかかっている業務は、AIで短縮できた分がそのまま日々の余白になるため優先度が高くなります。一方で、月に1回しか発生しない業務は、たとえ1回あたりの時間が長くても、研修で扱う優先順位は下げています。頻度が低い業務は、研修で覚えたやり方を次に使うまでに忘れてしまうためです。
熊猫商店の棚卸しでも、最初に挙がった業務は20件を超えていました。そのすべてを研修で扱おうとすると、1つあたりにかけられる時間が薄くなり、結局どれも身につきません。頻度の高い上位5〜6件に絞ったことで、1回の研修で「今日から使える」と言える状態まで持っていけるようになりました。
同じ研修を全員に受けさせない
棚卸しシートは部署や職種をまたいで集めることが多いため、出てくる業務の種類もばらつきます。ホール業務の棚卸しからは接客メニューの説明文や予約対応の文面が、事務業務の棚卸しからは請求書の確認や議事録の整理が挙がってきます。この2つを同じ研修で一緒に扱うと、片方には関係のない話を聞く時間が発生してしまいます。
私たちは棚卸しの結果を職種別に分けたうえで、研修そのものも職種別のモジュールに分けています。ホール向けには接客の文面作成を、事務向けには資料整理や要約を、それぞれの実際の業務データを使って練習してもらう形です。研修の対象人数が少ない会社ほど「全員で同じ研修を1回受ける」方が効率的に見えますが、業務が違う人を1つの教材でまとめると、どちらにとっても手応えの薄い研修になりやすいというのが実感です。
棚卸しは研修の前だけでなく、後にも行う
研修が終わった後、同じ棚卸しシートをもう一度書いてもらうことも設計に含めています。研修前の棚卸しで挙がっていた業務の時間が、研修後にどう変わったかを本人に確認してもらう工程です。変化がなかった業務があれば、それは研修のやり方が合っていなかったか、そもそも業務の性質上AIに任せにくいものだったという判断材料になります。
棚卸しシートは、研修を始めるための宿題としてだけでなく、研修の設計図と、研修の効果を測る定規の両方として使えるものだと考えています。研修を企画する立場の方には、シートを集めた後の「並べ替えて、分けて、もう一度書いてもらう」という工程まで含めて準備いただくことをお勧めします。
私たちはDX・AI研修の設計でも、こうした棚卸しの並べ替えから職種別モジュールの組み立てまでを一緒に行っています。